カーン、カーン、カーンと工房から聞こえる金属音とともに、自らのイメージを徐々に“かたち”にする鍛冶職人。鍛冶屋という存在が非常に貴重となってしまった今も「工房 あんと」には、日々小気味良いリズムで鉄を鍛える音が響き渡ります。
店名の“あんと”には、文字通りの「働きアリのように、懸命に働く」との思いが込められています。またもう一つの由来には、家族の名前のイニシャルが隠れているのです。そんなエピソードの中に、主宰の加藤友彦さんの、家族をとても大切に思う温かい人柄を感じます。
加藤家には、刀鍛冶として三代に渡って引き継がれる「刀匠水心子正盛」の技術が息づいています。その伝統の技で作られた、包丁やはさみ、園芸刃物などを、私達一般家庭の中でも実際に感じてもらいたい。そんな願いが込められているものなのです。
材料の鉄を熱する・叩き伸ばす・型に合わせて切る・ならし打ち(鉄を強くする)・ヤスリなどで成形・焼入れ・研ぐなどの全行程を手作業で行います。家庭用三徳包丁を1丁仕上げるのに、手で打つ回数だけでも五千回をも超える程。夏場の工房内は40℃にもなり、火のすぐ側にいる職人はさらに過酷な仕事になります。それも、すべてはお客様に良いものを提供し、喜んでいただくため。
また、こちらでは鍛鉄造形作品の受注も行っています。鍛鉄(たんてつ)と聞いても、「???」となってしまう方もいらっしゃいますでしょうか。オシャレな洋風建築の門扉やランプスタンドなどの鉄製装飾品を、棒状などの鉄材を叩いて曲げて、作り上げる技法です。これもやはり、全てを手作業で「世界にたったひとつ」の芸術性あふれる作品が創られています。ご自宅にこんな素敵なものがひとつあるだけで、ちょっとうれしくなってしまいそうです。
包丁・はさみなどの研ぎ・修理は、刃物職人が研いだ切れ味を是非感じてみてください。
その他、工房2階で児童絵画造形教室を運営しており、生徒たちも学校と違った雰囲気を楽しんでいます。
鉄という金属でありながら、どこか温もりを感じることのできるもの。「あんと」で作られた逸品にはそんな“温度”が感じられます。職人が手作業で作った包丁は一生もの。そんな素敵な出会いを求めて、一度工房に行ってみてはいかがでしょうか?